1. はじめに
今年で十周年となったヘッドホン祭に足を運び、今回も様々なハイエンドヘッドホンを試聴した。比較的新しいヘッドホンについて実際に試聴が行えたので、本記事では「試聴したハイエンドヘッドホン」の紹介と、「聴いた際の印象」を述べる。
なお、静かな会場や上質な電源環境で試聴したわけではないため、多少の認識の違いや個人の捉え方についてご了承いただきたい。
※ヘッドホンの撮影はどのメーカからも快く承諾していただき、とても親切にしていただいた。
2. 試聴ヘッドホンラインナップ
2018年春のヘッドホン祭で試聴したヘッドホンは8つある。
・EMPYREAN (MEZE)
・SR-009S (STAX)
・VOCE (MrSpeakers)
・HD820 (SENNHEISER)
・D8000用ケーブル UPG001HP Ref. (Brise Audio)
・SUSVARA (HIFIMAN)
3. EMPYREAN (MEZE)
本記事トップに掲載している画像がEMPYREANとなる。
試聴するための楽曲を持ってきていない私は、MEZEのブースで用意されていたPCを通してEMPYREANを試聴した。PCの中に「ラブライブサンシャイン」の楽曲がいくつか入っていたため速攻で再生を開始した。アンプは恐らくE3 hybrid Headphone Amplifierだと思われる。
ソースとして「未来の僕らは知ってるよ」を再生した。一聴して自宅で聴くヘッドホン達との違いが一点見受けられた。中域の音が浮いているのである。具体的には、中域やボーカルが周りの音(低域や高域)に比べて「ふぁさふぁさ」しているような感覚であった。それがこのヘッドホンの特徴なのかは定かではないが、しっかり全ての音を均一に鳴らすというよりかは、一部の帯域の音を味付けしてフィルタ気味に音を表現しようとしている印象であった。低域はUtopiaよりも出ていない控え目な感じだったが、その中域が浮いている分、音場は広く見通しが良かった。
このクラスの価格帯(記事によると4000ドル)であるので、音の解像度自体はUtopiaやD8000等と同様に非常に高かった。
EMPYREANに関して、海外のフォーラムを見ていると「限定500セット」であったり「価格が3000ドル」や「色」について投稿を見掛ける。今回その点についてブースのご担当の方に確認を行ったところ、
・当初、EMPYREANには限定色(ハウジングが茶色で縁が黒のタイプ)があり、それを限定生産として販売を検討していたが、好評によりそれを無しとし、幅広い色のバージョンを提供するかもしれない。
・色はシルバー、ブラウン、ブラック(?)
※発売前の情報であるため変更の余地は今後もある。
以上のようなお話を伺えた。今回の試聴だけでは、EMPYREANの全てを知ることは出来ないため、今後も機会があれば継続してその音質を確認していく予定である。また、環境によっても音質が変化したりリケーブルが行えるようでもあるため、試聴数をこなすことが重要であると考えている。
4. SR-009S (STAX)
ヘッドホン祭のほぼ直前に発表されたSTAXの新フラッグシップモデル。本記事では、現在所有しているSR-009との比較を主に述べていく。
構造的には、電極の金メッキ加工など細かい工夫とガードメッシュの曲面化、軽量化を行っているが、音自体にそれらがどのように現れるのか非常に興味深かった。
実際にSTAXのブースに行き、SRM-T8000とSR-009Sを試聴しクラシック系のソースを再生した。SR-009Sは全体的に音が柔らかく、解像度のある繊細な表現で音を自然に鳴らすことが分かった。一方SR-009は音自体を直接的に耳に訴えかけ、線のあるキレのある音を自然に鳴らしている。
従ってSR-009Sはまったり派でどちらかといえば暖色傾向があるのではないかと考えている。この暖色はSRM-T8000側による真空管によるものなのか、現時点で判断がつかないため、SRM-727Aと接続した場合にどう音質が変化するか確認が必要である。
※SR-009もSR-009SもSRM-T8000で比較試聴しているため、この段階で既に差はあることは明らかではある。
しかし、音の傾向としては弦楽器などのしっとりとした音は継承されており、耳のあたりで懐っこく鳴らしてくれている印象を持ったため、選択肢としては聴く音楽のソースや個人の音による好みで左右されてくるだろうと考える。
//-----------------2018/05/13追記------------------
ヨドバシカメラさいたま新都心にて再度、SR-009とSR-009Sについて試聴を行った。
ヨドバシさいたま新都心でマランツからSRM-T8000でSTAX試聴した。我が祖国を聴いたけどSR-007Aがコンサートホールで聴いているような感覚だったらSR-009は自分が演奏している感覚で009Sは指揮者になった気分になった。それくらい音一杯に音を表現する力があった。 pic.twitter.com/gSSIuWoHSI
— うまうま (@umauma2010) 2018年5月13日
印象としてはツイートの通りだが、補足するとSR-009Sが鳴らす「我が祖国のモルダウ」は、音が底から込み上げてくるような鳴り方で全身で音楽を感じ、まるで泉から水が湧き上がるような気持ちとなったのがポイントだった。009よりも音が柔らかく、音場も付加されて柔らかくなった分、そのような表現となったと考えられる。
SR-009Sの鳴り方の傾向としては理解できたが、今後はクラシック以外のアニソン等をはじめとした様々なジャンルでの試聴が必要となり、今後の課題としたい。
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5. VOCE (MrSpeakers)
こちらも静電型のヘッドホンとなり、MrSpeakersのブースではBlue Hawaiiに接続された状態で試聴が行えた。
Mr SpeakersのVOCEは独特だった。Blue Hawaii載っけてるのもあるかもしれんけど。懐っこくはなくスースーしたクール系というべきか pic.twitter.com/JjKwaVllaK
— うまうま (@umauma2010) 2018年4月28日
音質は、まさに静電型という形で独特な音で表現されていたがSTAXとはまた違った傾向の鳴り方であった。音のソースとしてラ・ラ・ランドのテーマを再生したが、音全体が透き通っていて音の息遣いが伝わってくるような印象だった。低域、中域、高域どれも基本的には均一だが、必要に応じて臨場感のある箇所は低音がドォンと出たり、力の抜き加減と入り加減のメリハリがよく出ていた。
アンプのBlue Hawaiiは真空管で、今回初めて聴くアンプであったが真空管特有の暖色系の音や厚みのある音がさほど聞こえなかったのが不思議であった。
当初、STAXをかなり意識したヘッドホンで海外で主流となりそうなものだと認識していたがSTAXのドライバにも適用できるという話もあり、新しい静電型の音を発掘したい方には魅力的な製品であると考える。
6. HD820 (SENNHEISER)
ヘッドホン祭の中でも目玉製品として登場しているヘッドホンであり、試聴人数も多いようで整理券が配布されていた。SENNHEISERのヘッドホンを聴くにあたり、ヘッドホン祭に出かける前に、自宅でもHD650をしっかり聴き込んでからHD820の試聴に望んだ。SENNHEISERのブースでは、クラシック系の音楽が再生されていた。
HD820はクリーン電源を通したHD650と比較して、解像度が高くハイエンド志向のヘッドホンとなった印象を持った。しかし、HD800系の傾向にあるような広大な音場はそれほど感じられず、HD800に軍配が上がると考えている。
自身としてもHD800以上のSENNHEISER製品を所有していないため、試聴レベルの感想となってしまうことをご容赦願いたいが、
解像度の点で言えば
HD800 < HD800S < HD820
となり、音場感で言えば
HD800 = HD800S ≧ HD820
(またはソースによって)
HD800 ≧ HD800S ≧ HD820
となると考えている。
7. D8000用ケーブル UPG001HP Ref. (Brise Audio)
当ブログでは、2018年4月にUtopiaをBrise Ausioのケーブルでバランス化し、導入効果があった実績がある。従って、現在自宅で導入中のD8000もバランス化によって更なる音質向上を図っている。
D8000のバランス化となると、Final純正のシルバーコートケーブルかBrise AudioのUPG001HP Ref.が候補として挙がってくる。今回は、その音質を事前に確認したいということで、Brise AudioのブースでUPG001HP Ref.を試聴した。
確かに、以前から話題となっているBrise Audioの専用アンプは解像度や音の濃密さに優れており、自宅のD8000と全く異なった音が出ていた。特に、ボーカルがかなり耳に近い形でねっとりと前に出てくる上に、その周りを包む音も迫ってくるが如く、臨場感のある音を常に創り出しているのである。ここでは自宅のD8000はまだ鳴らせていないことが分かり、今後のリケーブルによってそのギャップを埋めていかなければならない重要な課題として捉える良い機会となった。
8. SUSVARA (HIFIMAN)
以前から気になっているSUSVARAを試聴した。空気感がよく感じられ、まるでこれまで効いている音の方向性とは違う音で表現されていた。
一言で言えば、音がスカスカしているが悪い意味での表現ではなく、「囁き」と「透明感」が融合されたような美色系のイメージである。導入についてはもう少し検討していく予定である。
9. まとめ
今回は、2018春のヘッドホン祭で試聴したヘッドホンと、試聴した際の印象についてそれぞれ述べた。
ヘッドホンも高価格帯に遷移してきており、30万-50万の価格帯が特に盛上がりを見せており、音の違いを見出すのもよく試聴しなければ分からない世界となってきた。
今回の試聴で感じた印象も、何度か試聴を繰り返す内に考えが変化していくことも大いにある。引き続き新製品に関して周りの方のレビュー等も参考にさせていただきながら情報収集を行い、自宅のオーディオ環境をよりブラッシュアップしていく予定である。