1. はじめに
自身のヘッドホンの導入はHD650からはじまり、T1 2nd Generation、TH900mk2、SR-009、Utopia、D8000と目まぐるしく変化するヘッドホン市場と共に様々な音に触れてきた。今回は新たにHiFiMANのSUSVARAを導入*1したので、導入の背景と実際に聴き込んだ感想並びに現在所有しているヘッドホンとの印象の違いについて述べる。
2. SUSVARAの導入背景
HiFiMANはHE1000などをはじめとした平面駆動型のヘッドホンに定評がある。今回導入したSUSVARAも平面駆動型であり、594万円のSHANGRI-LAに次ぐハイエンドモデルとして位置付けられている。SUSVARAはヘッドホン祭にてはじめて試聴したものであり、一聴して落ち着いた音と透明感がある美色系の音質で、まったりとしつつも解像度のある音を好む自身にとっては非常に好みのものであった。
しかし現在所有しているヘッドホンと使い分けが出来るか、特に自然で美色系な音を奏でるSR-009と共通した部分がSUSVARAにはあるため導入を思い悩む日々を送っていた。
同時期に、自宅のシステムもPCオーディオからネットワークオーディオに移行しようとしていた際、ふとネットワークトランスポートを導入するのと新たにヘッドホンを導入するのではどちらがより音質に変化が見られるかについて考えた。現在ネットワークオーディオは発展途上であり、多種多様な方式でネットワーク化を実装できるよう試行錯誤された製品が登場している。その中で、これといった確立した手段を自分の中で決めることが未だ難しく、様子を伺い時間を掛けてネットワーク化を推進していく必要があると考えた。
また、音の半分以上はスピーカーで決まるとも言われており新たなヘッドホンを導入することで現在の音の見方を変えるような音質の領域を探っていくのも面白いと考えた。従って、今回70万に及ぶSUSVARAを迎え入れ、SR-009 / Utopia / D8000とうまく使い分けることとした。*2
3. SUSVARAの音質
自宅のオーディオ現環境を以下に示す。SUSVARAはDA-06からP-700uへバランスで繋ぎ、PC(Roon)より音を再生することとした。今回は、SUSVARAと共通点があると思われるSR-009をメインに比較試聴を行いながら、補足としてUtopia / D8000との音質の違いについても交えながらレビューを行っていく。
3.1 SUSVARAの全体的な印象
SR-009のボーカルはクリアで全体的なトーンは明るめでスッキリとした音を出している。SR-009のボーカルの伸びや余韻はUtopiaやD8000やSUSVARAよりもよりいっぱいに表現していると感じられる。対してSUSVARAは、Utopiaのようにボーカルに限らず周りの音を同列でまとめて拾い、低域、中域、高域の距離感を若干調整しているイメージである。バランスが良いと捉えることもできるがフラットな傾向ではなく、一つ一つの音が最大限のパフォーマンスで粒を揃え、きめ細やかに音を表現するものだった。SR-009で目立たない形で表現された細かい音は、SUSVARAの場合耳の近くでボーカルとほぼ同等の音量で表現される。従って、ボーカル以外に多くの楽器が入れば入るほどボーカルの伸びや余韻が周りの音に埋もれる形となるが、それぞれのパートが単体または少数であれば広い音場で楽しむことが出来る。
このように、SUSVARAはSR-009に比べ全体的にしっかりと鳴らすタイプで躍動感を感じることができ、曲の中の音自体をより最大限に楽しく聴かせるように工夫された音であると感じた。
これに伴い、SUSVARAでは情報量が多くなるのは必然的でこの辺の考え方はUtopiaと方向性は一緒なのかもしれないが、異なる点を挙げれば「SUSVARAはUtopiaのように弾けるようなスピード感を求めていなく、音の奥行きや底力はあるが風が吹くようにスウッと音が抜けることによってまるで船の上にいるかのようなゆったりとした気持ちにさせてくれる」ことである。
具体的には、SUSVARAは高域と低域ともに上下にある程度余裕を持った形で音を表現しており、音場を広く、耳へと広がるようなゆったりとした空気感のある音を出す。このような表現はまるでSUSVARAが音自体を包み込んでいるような感覚に包まれる。対してUtopiaは、曲に含まれている音を率直に耳へとダイレクトに鳴らす表現をする。音場や定位はSUSVARAよりも平坦だが、そのぶんクリアな環境となり鳴らしたい音を阻害する要因がなくなるため集中的に細かい音を鳴らすことが出来る。まるでSUSVARAは「音学」でUtopiaは「音楽」であるかのようである。
3.2 SUSVARAの低域~高域まで
SUSVARAの低音のアタック音はダイナミック型のように打ち込むタイプの力強さであるが、D8000のように特出して強調することはないものだった。対してSR-009の低音はSUSVARAに比べると直接的に訴えかけることはなく、ブォッブォッといった多少穏やかで控えめながらも高級感のある音色が特徴的だった。LUXMANが得意そうなドラムの跳ね上げる音はSR-009が多少、落ち着いて抑揚があり聴いていて爽快であった。
SUSVARAの高音は、これまでのヘッドホンの中で最も綺麗でキラキラとした音は限界を感じることはなく最強と言える。SUSVARAが鳴らす高音は湧き出てくるような潤いのあるものであった。前述の通り、SUSVARAは音自体を包み込んでいるような表現をするため低域・高域ともに限界を感じさせないものである。
3.3 SUSVARAの総括
・SUSVARAではP-700uのボリューム位置は12-13時辺りが丁度よい音量位置であった。駆動力が必要とされるT1 2nd GenerationやHD650でもP-700uのボリューム位置は最大11時を指していたのでSUSVARAは改めて駆動力が必要なヘッドホンであると感じた。自宅の環境で鳴らしたことがないがLCD-4のP-700uにおけるボリューム位置はいずれ確認したいと考えている。
・SUSVARAはアンプの駆動力が必要であるとの認識であったが、P-700uで鳴らしてみてもSR-009 / Utopia / D8000との違いをしっかりと感じることができた。また、LUXMANの音色をいつも以上に感じ取ることもでき、SUSVARAは駆動力というよりかはアンプの特色をそのまま活かす素直なヘッドホンであるとも感じた。
・SR-009Sでは、よりSR-009の音色が滑らかになったものと認識している。従って、SUSVARAの全体的なアタック感とでは方向性がまるで逆になっていくことが伺える。
この辺りは個人の好みにもよると思われるが、穏やかで自然な余韻ある音色が好きならばSTAXであるし、穏やかな傾向であるがダイナミック型のような迫力ある音色を楽しみたいのであればSUSVARAとなると考えている。
4. まとめ
今回はSUSVARAを導入し、既に導入済のハイエンドヘッドホンとの印象の違いを述べた。個人的なイメージであるが、SR-009 / Utopia / D8000はそれぞれ得意とする領域をもち、これまで本ブログでいくつか述べてきた得意な部分に対してスペシャリストであり続けていると考えている。
SUSVARAは特に癖がない、自身の所有する上記の3つのヘッドホンをひとつにまとめ上げた集大成という感触を持っている。もちろん全てを詰め込むことで味が失われる箇所もあり、例えばSUSVARAで曲を聴いている中で「SR-009ならここはもっと穏やかに優しく鳴らしていただろう」といったギャップを感じることもある。しかしながら、新たに得られる領域もあると考えている。
例えば、他のヘッドホンで鳴らしている最中に過る「ここはより繊細に鳴らしたい」「ボーカルが周りの音に埋もれがち」という少しの不満を解決するほかに、低域から広域までの伸び、パワーなどの表現できるハイパフォーマンスな音を聴くことで、曲本来の原音をバランスよく表現することによる自身の音への向き合い方を変えてくれるものと信じている。SUSVARAには、全ての曲に対して「こうであるべきだ」という手本を示すようなパフォーマンスを今後も期待している。