1. はじめに
2019年春のヘッドホン祭にて、トゥルー・リボン・ヘッドフォンである「RAAL-requisite SR1a」は見た目、音質、鳴らし方の観点で話題を呼んだ。近頃では、SR1aのクラウドファンディングがmakuakeにて開催され、既に目標金額は達成している。私自身としては、ヘッドホン祭で本ヘッドホンを聴く機会を逃しており音質に興味を抱いていた。名古屋、大阪でSR1aの試聴会が開催される中、このたび試聴会が東京・中野のフジヤエービックで開催され、CHORDのDAVE、EtudeとともにSR1aを聴く機会を用意していただいた。
今回は、SR1aの店頭試聴会に参加し実際にDAVE→Etude→SR1aの構成で音質を確認した結果の印象を報告する。なお、自宅の環境にて「ES-1200→DA-06→C-800f→SRM-727A→STAX SR-009」で事前に耳を鳴らした上で試聴会に臨んでいる。
2. RAAL-requisite SR1aの概要
SR1aは、両側にリボンドライバーが配置され、カーボンファイバー、クッション、レザーなどで構成されている。Focal Utopiaにもカーボンファイバー製特殊形状ヨークが用いられてエレガントであるが、SR1aはより無骨で機械的な造りとなっている。SR1aを鳴らす専用ドライバも必要であり、そのドライバはパワーアンプで駆動したりと、なかなか独特な製品となっている。ドライバといえばSTAXのイヤースピーカーなどの静電型ヘッドホンも専用ドライバが必要であるが、DACまたはプリアンプと接続する形式のものが多い認識であり、SR1aの違ったアプローチの仕方に興味を抱いている。
装着感としては、基本的なヘッドホンの形式である側圧という概念よりかは、頭に「被る」という表現に近いのかもしれない。耳の上に何かが載っかっているという感覚の中、音が再生される。重さは450グラム(要出典)ほどでSUSVARA、SR-009などの重さのレベル感と思われる。実際に試聴会でSR1aを装着した印象としては、「意外と重さがあるな」という感じであった。
音自体については後述するが、ヘッドホンから音は漏れることは確認したため自宅室内向けと言える。このSR1aをCHORDのDACであるDAVEとパワーアンプのEtudeが接続された状態で鳴らしていただき、実際の音質を確認した。総額で300-400万ほどと推測する。
3. SR1aの音質
SR1aは、数々のハイエンドヘッドホンの特徴を一切無視したまったく新しい表現の音を奏でることを確認した。Utopia、D8000、SR-009、SUSVARA、Empyreanなどの音の特徴とSR1aが出す音はカテゴリが違うということを前提としている。
実際に思った印象を漠然と述べると、耳の横にツィーターあるいはウーファーが両耳に吊り下げられていて、それに振動を無くした感じがSR1aの出る音という感じを抱いた。
SR1aが表現する音は、上下左右の音に余裕があり、低音高音ともに素直に自然で綺麗に鳴らす。この「自然」については語弊があるといけないので後述する。以前、SUSVARAのレビュー時にも、高域と低域の余裕の違いについて述べたことがあったが、それを超えた広大な余裕さがSR1aにあるということに驚愕している部分はある。
ではなぜ、SR1aはこれまでのヘッドホンの音の表現と違うように感じるかについて考えた。基本的なヘッドホンは、得られたソースをもとに特定の領域で音が再生されているように感じる。音のソース自体をそのヘッドホンの特性に応じてダイレクトに耳に届く形となり、アタック感やスピード感が味わえる。
対してSR1aはあたかも音の出る上下左右の空間が既に定義されており、その空間はかなり広大にとられているように感じられた。その空間から音が出るため、余裕のある出音が出ていると錯覚しているのかもしれない。私はよく、自然というワードを用いてしまうが、STAXのイヤースピーカーの自然と、SR1aの自然さはまた異なった表現であると認識している。STAX SR-009は耳の周囲に音が鳴っていての空間的な自然さを感じることがあるが、SR1aは出音のバランスと音場が一体感に包まれた形での再生的な自然さを感じている。
今回の試聴会では、福山雅治の青春の影や女性ボーカルなどを再生いただいたが、SR1aはどれも息遣いが感じられ、かつ音の一粒一粒がはっきりと表現されていた。また低域は多少弾むように、高域はキラキラとしていた。低域についてはD8000ほど乾いた速い低音ではないが、周りの音とよく分離されて強調されることなく良いバランスで表現されていたと感じる。また、高域はSUSVARAと同等のも綺麗で艶があって流れるような音が印象的であった。既にご認識いただいているが、これらの音はかなり余裕のある状態で音が再生されている。
4. SR1aとその他のヘッドホンの差異
SR1aと他のヘッドホンとのカテゴリの違いを意見した中で、結局のところ具体的な差異はどこにあるのか検討を行った。例えば、自宅のSR-009とSR1aの特徴の違いについてはカテゴリは違えど、差異を主張できる要素はいくつかあると考えている。例えば、「音の優しさ」はSR-009の方が柔らかいし、「聴き疲れしない」のはSR-009である。また、「雄大さ」や「音の立ち上がり」はSR1aが得意としていると感じることもある。
他のヘッドホンと比較しても同様なことが言えるように考えており、「音の解像度」であればUtopiaだし、「音楽性」であればEmpyrean...などというようになにか特定のワードを挙げれば各々のヘッドホンが得意とする特性が浮かび上がる。同時に、SR1aと似ている特性も一部見受けられる。従って、新しい音楽表現としてSR1aが挙がったわけだが、これまでのヘッドホンと優劣があるわけではなく、個人の好みとする表現性は大切にされていきたいと感じている。私自身としても、SR-009、Utopiaらの現在の環境を継続して運用していきたい思いがある。
5. 今後の展望、SR1aの運用保守について
SR1aは是非とも、運用してみたいと考えている。ケーブルに際してもBrise AudioがSR1a用にラインナップされており、隙がないように思える(今回の試聴会では標準ケーブルが用いられていた)。自宅の環境にSR1aを追加導入するならば、導入済のC-800fのプリアンプにM-800AやB-1000f以上の強力なパワーアンプを用意したいと構成を考えている。
SR1aのリボンについてであるが、リボンの寿命としては湿気等の要因により交換が必要になるとのことであった。交換が必要となるタイミングとしては、再生音にバリバリとノイズが出たりアンバラになったりと、比較的一般的なヘッドホンと同様の形で故障が検知できるようであった。数年で定期的なメンテナンス、リボンの交換することは、一時期負担と考えたが、SR1aは高価なイヤーパッドが無いため、その分を相殺できるのでは、とも考えた(Utopiaのレザーイヤーパッドは3万程度)。
今後は上記で述べた導入費と保守費を検討の上、しっかりと予算を立てて導入化に至りたいと考えている。
6. まとめ
今回は、RAAL-requisite SR1aをDAVEとEtudeで試聴し、その音の印象について述べた。ヘッドホン祭で聴き逃した分、このような試聴の機会を設けていただいたエミライ、フジヤエービック、タイムロードには感謝申し上げる。
独特かつ新しい領域の音質を確認できたことは非常に良い経験となった。また、より高度な自宅の機材構成を考えるきっかけにもなり、今後もより良い環境作りに励んでいきたい次第である。
ラックス スピーカーケーブル(3.0m・ペア)《フラグシップ・アルティメイト・ケーブル15000シリーズ》LUXMAN JPS-15000
- 出版社/メーカー: LUXMAN(ラックスマン)
- メディア: エレクトロニクス
- この商品を含むブログを見る